月の記録 第44話


出撃の準備中もたらされた報告に、スザクは全身の血が引いて卒倒しかけた。だが、どうにか持ち直し、聞き間違いかもしれないと再度内容を確かめる。しかし、繰り返された内容は先程と同じで、視界がぐにゃりと歪んだ気がした。

「日本に向かわれていたオデュッセウス殿下、ナナリー皇女殿下、ルルーシュ殿下が、テロリストの手に落ちたと・・・?」

ありえない、どうしてそんな事に!?
混乱する頭を抱えながら、スザクは状況を整理しようと思考を巡らせた。そうだ、明日から1週間の日程で、各国首脳が集まる会議が日本で行われる予定だった。首脳会議にブリタニア皇帝シャルルが参加する事はない。これはテロリストを刺激しないためだ。今は停戦しているとはいえ、侵略戦争で多くの国を苦しめたのだから、暗殺の危険も高く、リスクが高すぎた。だから、毎回代理としてシュナイゼルか、あるいはオデュッセウスとナナリー、皇族の中でも穏健派と呼ばれる二人がそろって会議に出席していた。オデュッセウスは凡庸で、政治には不向きではあったが、第一皇子という地位がこの場では生きてくる。ナナリーは生まれも遅く、皇位継承権も低いが、頭の回転が速く、平和的な話し合いを進めるならば、シュナイゼルかナナリーをといわれるほどの為政者となっていた。ただ、先も述べたようにまだ16歳という若さと、継承権の低さから、このような場には不釣り合いとされた。だからこそ、相応な年齢と地位のあるオデュッセウスと、若く才能のあるナナリーが共に行動するようになった。
オデュッセウスをお飾り扱いして馬鹿にしていると、ウ家の者や貴族たちは腹を立てているが、今までこのような場に立つことさえ出来なかったオデュッセウスは「ナナリーと共に行動することで、驚くほど多くの事を学んでいるよ」と笑いながら言うので、二人で参加するという事自体を邪魔する者はいなかった。
だが、優秀な妹と駄目な兄。
そんな目で見られる事に業を煮やしたウ家の者は、今回この二人に同行する形で、ルルーシュも会議に参加するよう打診してきた。
無能と呼ばれるルルーシュが加わる事で、「第一皇子であり、皇位継承権第一位。その母は大貴族の娘で、家柄も確かなオデュッセウス」と、「第11皇子で皇位継承権も一七位と低く、その母親は庶民の出。無能を絵にかいたような男で、唯一の長所は母親譲りの容姿だけなルルーシュ」という図式に変わる。マリアンヌは難色を示したが、ナナリーは面白がり「いいじゃないですか、お母様。無能なお兄様もお役にたてるのですから、共に行くべきです」と同意を示した。
そうして向かった日本で、三人の皇族はテロリストの手に落ちたのだという。
・・・ルルーシュとナナリーが、敵の手に。

『シュナイゼル殿下からの情報だから間違いないわ』

通信機越しに聞こえてくるセシルの声も震えていた。
こんな時に、こんな冗談を言う人ではない。
セシルも、シュナイゼルも。
いや、元々この手の冗談を口にする人物じゃない。
ならば、事実なのだ。

「・・・っ!すぐに日本に向かいましょう!!」

ランスロットがあれば、二人を助け出せる!
絶対に、助ける!!

『落ち着いてスザク君、各国の首脳も』
「他の国なんてどうでもいい!」

いくらスザクでも、全員を助け出すのは難しい。
だが、この両手で抱えられるだけ、二人だけなら救いだせるはずだ。

『どうでもいいわけ無いでしょう!貴方のお父様も捕えられているのよ!』

激昂したスザクの言葉に、こちらも今まで聞いたことないぐらい焦りを滲ませたセシルの声が返ってきた。
そう、各国の代表。
日本の首相は枢木ゲンブ。
スザクの父親だ。
各国の首相のなかに、当然含まれるべき人物。
完全に失念していたスザクは、セシルの言葉にハッとなった。

『いい、これはブリタニアだけの問題では無いのよ。スザク君は、お二人と親しいのだから救出作戦に加わるはずだから・・・』
「・・・解りました。まずはエリア2に向かいます」
『ええ、私たちは今できる事に集中しましょう』

集中など無理な話だと解っている。
スザクがどれほどルルーシュの騎士になりたいと願い、今もその傍に戻りたいと願っているか。身近で見ていたセシルは、スザクが冷静でいられるとは思っていない。だが、この情報を隠したままエリア2へ向かっても、どこかで必ず耳にする事になる。その情報を戦闘中、敵からもたらされ、動揺し操縦を誤る可能性だってある。ならば、出撃前の今知らせる方がいい。

「・・・すぐに終わらせて、戻ってきましょう」

手加減も、容赦もしている余裕はもうない。
エリア2政庁を占拠しているテロリストを即座に殲滅し、戻ってこなければ。
スザクは今まで見せた事のないほど険しい表情で、ランスロットを見上げていた。

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